今回からは飛行力学について解説していきます。
最初は、航空機の運動方程式を導出します。(今回の内容)
次回は微小擾乱理論に基づき、4つの連立方程式を線形化していきます。
そうすることで、伝達関数や状態方程式を用いた運動解析が可能となります。
1 航空機の非線形運動方程式
1.0. 座標変換
静止座標系OI−XIYIZIと動座標系O−XYZを考える。
まず、静止座標系における速度、角速度を以下のように成分表示することにする。
vc=[ijk]U V W
ω=[ijk]P Q R
このとき、U=[ijk]を基準基底といい、各座標軸方向の単位ベクトルを並べたものである。
また、vc、ωを幾何ベクトル、[UVW]Tや[UVW]Tを座標成分ベクトルと区別する。(矢印の有無で書き分ける。)
このとき任意のベクトルrについて
dtdr=r˙+ω×r
が成り立つ。ただし、
r˙=dtdXi+dtdYj+dtdZk
は動座標系から見たvcの時間変化率である。
更に、ωの外積をとることは
Ω=0 −R −Q−R0−P−Q−P0
の行列積を取ることと同義であり、このΩを外積行列という。
1.1. 動座標系で記述した運動方程式
Newtonの第二法則を動座標系で記述することを考える。
1.1.1. 機体重心の運動方程式
質点運動に関するNewtonの第二法則は運動量保存則
mdtdvc=∑F
で記述される。
機体に固定された動座標系で表現すると、
m(Ωvc+vc˙)=U∑F
成分で書き下すと、以下の式を得る。
U˙ V˙ W˙=0 −R −Q−R0−P−Q−P0U V W+m1FX FY FZ
(Ωは交代行列であることに注意)
1.1.2. 姿勢運動の方程式
回転運動に関するNewtonの第二法則は角運動量保存則
dtd∫Vr×Vdm=M
で記述される。
機体に固定された動座標系で表現すると、
UJω˙+UΩJω=UM
ただし、Jは慣性テンソルである。
U−1を両辺にかけて以下の式を得る。
ω˙=−J−1ΩJω+J−1M
M=[MNL]Tとおけば、
U˙ V˙ W˙=Ixx −Iyx −Izx−IxyIyy−Izy−Ixz−IyzIzz−1(−0 −R −Q−R0−P−Q−P0Ixx −Iyx −Izx−IxyIyy−Izy−Ixz−IyzIzzP Q R+M N L)
1.2. 座標系の種類と座標成分の変換
1.2.1. 地面固定座標系
上で導いた二つの方程式を表現するために、一つ固定座標系を用意する必要がある。
そこでZ軸を下向きにとる地上に固定された座標系XEYEZEを導入する。
ここでは、XEYEZEの回転は無視できるとし、慣性系の一つとして考えることができるものとする。
1.2.1. 機体軸系
座標原点を機体重心、XB軸を機体の幾何学的基準線におき、ZB軸をXBと垂直な方向に機体の下方へとり、YBを右手直交系をなすように取った座標系を機体軸系という。
また、XB、YB、ZBの3軸のことをそれぞれroll軸、pitch軸、yaw軸という。
1.2.2. 安定軸系
機体軸系をYB軸まわりに迎え角−αだけ回転させ、飛行速度を対称面に射影した方向にXS軸を取る。このXSYSZS座標系を安定軸系という。
安定軸系では、常にZS成分の速度ベクトルは0となる。
1.2.3. 風軸系
対気速度ベクトルが対称面からβだけずれているとする。
このとき、安定軸系をZS軸まわりに横滑り角βだけ回転させて、対気速度ベクトルの方向にXW軸を取った座標系XWYWZWを風軸系という。
α、βに関する次の式を用いて、計算をできるだけ簡単にしていく。
tanα=UW, tanβ=U2+W2V
1.2.4. 慣性主軸系
慣性テンソルJは正対称行列だから、適当な座標軸を取ることにより対角行列にすることができる。
このときの座標系を慣性主軸系という。
1.3. 速度・角速度の座標変換
回転操作は線形変換であるため、ある行列Rの行列積をとることに置き換えることができる。
このRを回転行列という。
ここでは、Euler角における姿勢表現から回転行列を求め、角速度成分の関係を表すキネマティック方程式を導く。
1.3.1. Euler角による姿勢表現
Euler角で姿勢を表現するときは 座標軸の回転順序が重要であり、航空機の場合は321系、つまりZ1軸→Y2→Z3の順に、それぞれΨ、Θ、Φだけ回転させることで表現する。
1.3.2. 速度ベクトルの座標変換
地上固定座標系での速度をve、機体軸系での速度をvc=[UVW]T
すると、1.2.1.から地面固定座標系から機体軸系への速度の座標変換は
ve =RX3(Φ)(RY3(Θ)(RZ3(Ψ)vc))=cosΨ −sinΨ 0sinΨcosΨ0001cosΘ 0 sinΘ010−sinΘ0cosΘ1 0 00cosΦ−sinΦ0sinΦcosΦU V W=cos(Ψ)cos(Θ)sin(Ψ)cos(Θ) −sin(Θ)sin(Φ)sin(Θ)cos(Ψ)−sin(Ψ)cos(Φ)sin(Φ)sin(Ψ)sin(Θ)+cos(Φ)cos(Ψ)sin(Φ)cos(Θ)sin(Φ)sin(Ψ)+sin(Θ)cos(Φ)cos(Ψ)−sin(Φ)cos(Ψ)+sin(Ψ)sin(Θ)cos(Φ)cos(Φ)cos(Θ)U V W
と表現される。これを航法方程式という。
1.3.3. 角速度ベクトルの座標変換
Z1軸周りの角速度をもつ角速度ベクトルΨ˙を機体軸系の成分ベクトルに変換すると、1.3.1.よりRZ1(Ψ)→RY2(Θ)→RX3(Φ)の順に作用させたから、
Ψ˙3=RX3(Φ)(RY3(Θ)(RZ3(Ψ)Ψ˙))
Y2軸周りの角速度をもつ角速度ベクトルΘ˙を機体軸系の成分ベクトルに変換すると、1.3.1.よりRY2(Θ)→RX3(Φ)の順に作用させたから、
Θ˙3=RX3(Φ)(RY3(Θ)Θ˙)
X3軸周りの角速度をもつ角速度ベクトルΦ˙を機体軸系の成分ベクトルに変換すると、1.3.1.よりRX3(Φ)を作用させたから、
Φ˙3=RX3(Φ)Ψ˙
以上から
ω=RX3(Φ)(Ψ˙+RY3(Θ)(Θ˙+RZ3(Ψ)Ψ˙))
が得られる。
しかし、実際にセンサーから得ることができるのはωであるので、ωから[Φ˙Θ˙Ψ˙]Tを得る式を計算する。
上の式を成分表示すると、
P Q R =1 0 00cosΦ−sinΦ0sinΦcosΦ(Φ˙ 0 0+cosΘ 0 sinΘ010−sinΘ0cosΘ(0 Θ˙ 0+cosΨ −sinΨ 0sinΨcosΨ00010 0 Ψ˙))=1 0 00cosΦ−sinΦ−sinΘsinΦcosΘcosΦcosΘΦ˙ Θ˙ Ψ˙
よって逆行列をかけてやれば
Φ˙ Θ˙ Ψ˙ =1 0 00cosΦ−sinΦ−sinΘsinΦcosΘcosΦcosΘ−1PQR=1 0 0sinΦtanΘcosΦsinΦ/cosΘcosΦtanΘ−sinΦcosΦ/cosΘPQR
これはEulerのキネマティックス方程式と呼ばれる。
1.4. まとめ
剛体の非線形運動方程式は以下の4つの連立方程式として表される。
U˙ V˙ W˙ P˙ Q˙ R˙ Ue Ve We Φ˙ Θ˙ Ψ˙=0 −R −Q−R0−P−Q−P0U V W+m1FX FY FZ=Ixx −Iyx −Izx−IxyIyy−Izy−Ixz−IyzIzz−1(−0 −R −Q−R0−P−Q−P0Ixx −Iyx −Izx−IxyIyy−Izy−Ixz−IyzIzzP Q R+M N L)=cos(Ψ)cos(Θ)sin(Ψ)cos(Θ) −sin(Θ)sin(Φ)sin(Θ)cos(Ψ)−sin(Ψ)cos(Φ)sin(Φ)sin(Ψ)sin(Θ)+cos(Φ)cos(Ψ)sin(Φ)cos(Θ)sin(Φ)sin(Ψ)+sin(Θ)cos(Φ)cos(Ψ)−sin(Φ)cos(Ψ)+sin(Ψ)sin(Θ)cos(Φ)cos(Φ)cos(Θ)U V W=1 0 0sinΦtanΘcosΦsinΦ/cosΘcosΦtanΘ−sinΦcosΦ/cosΘP Q R